むかし浅立の里が出来た頃、とっても仲の良いふかぐつと甚平の二人の若いもんがいました。ある春の日「あの山向かいに何かあっか行って見たいなあ」と語り合いました。「行くべい、行くべい」となり、豆しぼり手拭で鉢巻きをきりりと締めて、今の大沢の所から登って行ったんだと。ところがあの一斗五升松の木の所まで行ったけど、あと何んぼがんばって登っても上に行けないんだと。そのうちくたびれてウツラウツラしたんだと。そしたらすーっと霧が立ちこめて来たんだと。中から美しいお姫様が出て来たんだと。「お前達どうしたんだ」と言うので「山の向こうに行ってみたいんだ」と言いましたと。するとお姫様は「一斗五升松の精だよ。私の後についておいで」と言われたのでついて行ったら、あっという間に上についてしまったと。不思議だ。向こうを見ると桜の花、梅の花、桃の花の真っ盛りで美しい事。二人はうれしくなり夢中ではしゃぎ廻り、時もわすれ遊んでしまって、日も暮れてしまったんだと。そしたらお姫様が「お前達、もうお家には帰れないんだよ」と言われたんだと。
さあ困った事になったもんだ、どうしようか。そしたらお姫様が「お願いがあるんだよ。蛇ばみ山の向うに大きな沼があって主のうわばみが住んでいて、私に嫁になれと攻めてくるので困っているんだよ。助けて。退治してくれ」と言われました。「困ったな。どうせ家に帰れないんならやんべやんべ」と鉢巻きを締め直して三人で出かけました。蛇まみ山の上で「ヤアヤア、よっく聞けうわばみ、お前を浅立のふかぐつと甚平が退治に来たぞ」と大声を上げたんだと。そしたら一天俄かにかき曇り稲光がビカビカ、雷がゴロゴロ、雨と風がごうごうと物凄く大地をゆるがし、沼の中から大きな頭を上げ真っ赤な大きな口をあけ火を拭きカランカランと「何をこしゃくな小ワッパ」とかかって来たんだと。そこで二人は、ソレッと弓であの目めがけて矢をピュウピュウとはなったんだと。夢中に丁々発止と一時頑張ったんだと。そのうち一本の矢が右の目に命中。グワグワと苦しみ沼をぐるぐる廻って火の玉となって赤湯の白龍湖の方へ飛んで行ったんだと。お姫様は涙を流して喜んで「おしょうしな。お前たち家に帰る事が出来るよ。時々遊びに来てくれろ」。ふかぐつと甚平のお手柄でした。その後、今から六百年くらいむかし平家の落武者一人駒木の里に落ち着いたんだと。今も山の中腹の当りからコンコンと素晴らしい清水が沸き出ています。明治末頃、浅立学校が出来てから駒木も三軒になり子供達がかよって来ました。
白鷹町老人クラブ連合会様 「白鷹のとんとむかしとうびんと」より
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