maintop

山形県の民話

食わず女房

 昔、こんなことがあった。
あるところに、けちな男がいて、毎日山へ炭焼きに行って、それで生計を立てて暮らしていた。
男も年頃になったものだから、近所の人たちは
「嫁をもらったらいいんじゃないか」
と言った。その男は、
「嫁をもらうのはいいけれど、ご飯を食べずに働く嫁が欲しいなぁ」
と言った。
その夜になると、男の家の戸をたたく音がした。
「私のことを嫁にしてください。私、ご飯を食べずに働きますから、私を嫁にしてください」
と(戸をたたいた娘が)言うのだと。きれいな娘だったので、喜んだ男は家の中に入れた。
「それなら、俺の嫁にしよう」
朝早くから夜おそくまで嫁は働くし、男が炭焼きから帰ってくると、ちゃんと夕飯の用意が出来ている。こんなに良い嫁はいないと男は村中にふれまわった。
「俺のところの嫁はご飯も食べずに働くわ働くわ。こんな良い嫁はどこにもいない」
と言うものだから、たちまち村中の評判になった。
そうすると、毎日のように村の若者がやって来て、
「どれどれ、ご飯を食べない嫁と言うのは、どんな嫁だ」
と見て行くのだと。
ある日、村の若者がこっそりのぞいて見たら、五升鍋いっぱいにご飯を炊いていたんだと。
これは変だと思ってなおものぞいていたら、鍋のふたにいっぱいおにぎりを握ったので、どうするのかと思っていたら、こっちを見た(嫁の)顔が蛇だったので、びっくりして逃げ出したんだと。
(逃げ出した男はけちな男に言った。)
「おまえが炭焼きに行っている間に(おまえの嫁は)ご飯を食べるんだ。嘘だと思うなら、そっと炭焼きに行くふりをして、天井裏から見てみたらどうだ」
「そんなばかなことがあるか。俺の嫁はご飯を食べないと言って来たのだから」
(と答えたが、)男は次の日、山へ行くふりをしてこっそり天井裏に隠れて見ていた。
そうしたら、本当に大きな鍋を出してご飯を炊き始めた。
「これは、本当のことだ」
と男は見ていたら、鍋のふたにおにぎりをいくつもにぎった。そして髪をほどくと頭の真ん中に大きな口があるんだと。
「太郎も食べなさい。次郎も食べなさい。おやじの来ないうちにたくさん食べなさい」
と嫁は頭の真ん中の口からどんどんおにぎりを入れてしまったんだと。
それを見ていた男はびっくりしてしまって裏からそっと降りて来て、
「ああ、忘れ物したので、戻って来た」
と言って家に入って行った。
「ところで、五月の節句だから、実家に行かなくてはいけないのではないか」
と言って嫁を連れ出して川端まで来ると、菖蒲とヨモギの原っぱがあったので、そこに入ると嫁は蛇の姿になり、ぐるぐると走りまわって姿を消してしまった。
だから、五月の節句になると、蛇が子を産まないようにと、家の軒端に菖蒲とヨモギを束ねてさして、おはらいをするし、菖蒲湯をたててみんなで入るのだと。
それにしても「ご飯食べない嫁がほしい。ご飯食べない嫁がほしい」なんて言うものではないよ。

白鷹町老人クラブ連合会様 「白鷹のとんとむかしとうびんと」より
maintop